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はらっぱ


ソロアルバム発売記念
HALMA GEN ピアノ・ソロ・コンサート
2000.11.22.wed. 東京都 門仲天井ホール アートキッチン

■ PROGRAM ■ LIVE REPORT ■

■ LIVE REPORT 

ピアノと歌と尺八と門前仲町「アートキッチン」11/22
Reported by てじょんさん

第一部 ピアノの巻 / 日本のサティHALMA GEN
第二部 尺八の巻 / カリスマ邦楽師坂田梁山

 第三部 歌の巻 / ミューズの巫女李政美 


 「僕はこの20年ほど、いろいろな人と、そう、楽器とか歌とか、ほんとにいろんな人とやってきました。でも、自分のCDを出したのは、初めてです。
 そのいろいろな人の中で、とても素敵な歌を歌う女性と出会ったんですね。
 その人の名は……い・ぢょんみさん。」

 お待ちかね。歌姫、李政美の、登場だ。
 GENさんの音楽人生の中でも、おそらく最高の出会いの人。
 李政美さんのおっかけを続けていると、いろいろなアーティストと出会う。そのどの人もすばらしい音楽を聴かせてくれる。それは、李政美さんの曲を慕う人は、音楽的に共鳴し合うピュアなハートを持っているからだろう。
 紫のドレスを着た李政美に続いて、ギターの矢野敏広。

 「今回のアルバムでは、お二人にも協力してもらいました。僕はピアニストで、歌はあまりうまくないですが、一曲歌ってみました」

第8話 「おそらにしろいとり」

 ピアノを弾きながら、HALMAさんが珍しく歌う。
 李政美さんは、うしろにきれいな、ハイトーンのコーラスを入れてくれる。
 澄んだ青空に流れる白い雲のように、白い雲を流す爽やかな風のように。

    ♪ おそらにしろいとりが とぶよ  きみとふたり
         とおく なつかしい きみがわらう……


 GENさんの歌は、すごくうまいというわけではないのだけど、素朴な感じがして悪くなかった。しろいとりを追う、子供のように、素直な歌だ。
 李政美は、すると、鳩のようにはばたく「しろいとり」なのだろうか。
 それとも、空と鳥を、いっしょに見つめている「きみ」なのだろうか。
 どちらにしても、彼女の声が、この歌に秋の青空の深みを与えていた。

 このような李政美の起用は、もったいない気もする。
 せっかく、彼女に出てもらうのだから、一曲歌ってもらえば。
 でも、彼女が歌えば、その強い個性によって、このアルバム自体が、彼女のイメージに包まれすぎてしまうことを避けたのだろう。これはGENさんのアルバムだから。「ゲルマニューム・ラヂヲ」同様、その素朴さは良かった。

 「あの、李政美さんにも、今日はせっかくですから、一曲歌っていただいてよろしいでしょうか」
 いつもに似合わぬていねいな口調に、政美さんはくすりと微笑んだ。
 「それ、わたしに言ってるんですか。ふふ。もちろん歌いますよ……」
 さて、彼女は、今日は何を歌ってくれるんだろうか。
 「では、こないだ作った曲です。……『あなたの墓のそばに』。」
 わあ、これはうれしかった。今日は彼女はゲストで、一曲しか歌えないのにその一曲に、小生の一番お気に入りの曲を、選んでくれたということ。

 「ファンの方から、詩を紹介していただいて、すごく気に入って、自然に曲になりました。韓国の詩人で、ト・ジョンファンという人の、ベストセラーになった詩集があるんですが、その詩に曲をつけてみました。
 韓国って、近いようで、私にとっては遠い存在なんですね。韓国の詩人といってもどうやって連絡をとったらいいのかと思っていたんです。それが、昨日連絡がとれて、電話で話をしたんですよ。詩に曲を付けてうたいたいと言ったら、快く承諾していただいて、ほっとしました。」
 これは、なんという、朗報であることか。
 ト・ジョンファンの『立葵のあなた』は、李甫姫の主演で映画になり、小生はすっかり気に入って、韓国で詩集を買ってきて、少し試みに訳してみた。
 しかし、映画は見て本は買ったものの、いざ、その詩人に会ったり話したりすることは、思いもよらなかった。いや、そもそも、作者は今も健在なのか、それさえもよく知らなかったのだ。だから、これはほんとにうれしかった。
 いつか、『立葵のあなた』を全訳してみるのが、小生の夢である。

 「これは、なくなった奥さんのことを歌った詩なんです。けれど、ただ個人的な愛の歌というだけではなくて、もっと深い自然と人間との愛、というか、つながりを詠んだ、そんな歌だと思うんです。」
 なるほど、この歌には、奥さんへの深い愛情ばかりでなく、その魂が自然へととけこんでゆく、自然との精神的な感応がある。さすが慧眼だと思った。
 しっとりしたピアノの伴奏につづいて、ちょんみさんの声が響き始める。

ト・ジョンファン作 李政美・訳・曲  「あなたの墓のそばに」

    あなたの墓のそばに なでしこの花そなえてくれば
    あなたは雲となり あの山越え わたしについてきて

    あなたの墓の前に とむらいの火を焚いてくれば
    あなたは宵闇の 星となり わたしについてきて


 窓の外には、夜の東京の街の高層ビルの明かりが、とむらいの火のように、 宵闇の星のように、いや、なき人の魂のように、遠くきらめいている。
 人の魂は、山にのぼるのか、空にのぼるのか。「昇天」といい「天に召される」というが、高きに登れば、人の魂は、近くにあるのだろうか。

 李政美姫は、目をつぶり、両手を胸の上に合わせて、歌っていた。
 そしてまた、時おり、両手の掌を広げて前に向け、体の両側にかざした。
 それは、まるで、空中の霊を、掌を通じて、心に呼び寄せるように。
 心の内に入ってきた霊の力を、心の中で増幅し、自らの体の共鳴胴によって響かせ、その声を、歌としてのどから出し、皆に聞かせるように。

 GENさんの「ゲルマニューム・ラヂオ」もそうだけど、山岳の高地にあって、都会の声を拾う、電波というものの力は不思議である。
 電波というのは、目には見えないけど、この空中に満ち満ちていて、ラジオのアンテナが、周波数に応じて、遠くの声を拾うのだ。
 思うに、人間の霊魂というのも、もしあれば、そういうものではないか。
 磁力も電力も引力も、かつては存在を知られていなかったが、今は計測可能なものとなっている。霊力も、まだ科学的に検証されていないだけで、実は、この空気中に存在するかもれしない。百年千年たてば知られるかもしれない。

 李政美は、作曲という仕事について、かつてこのように言った。
 「歌を作るということは、巫女のようなところがあります。ずっと歌詞を口ずさんでいると、ふっと曲が与えられたようにわいてくる、そんな瞬間があるんですね」
 21世紀を迎える今日も、まだ科学的に霊魂は証明されていなが、原始以来、人類は、霊魂と感応し通信するために、シャーマニズムを生み出した。
 それは西洋では霊媒師であり、日本では卑弥呼のような巫女や津軽のイタコであり、そして、朝鮮ではムーダン(巫堂)だった。
 今、李政美は、「ミューズの巫女」として、現代に霊魂を呼び起こす。

    あなたの墓のそばに 歌をひとつ残してくれば
    あなたは草むらの 虫の音となり 家までついてきて

    あなたの墓の上に 涙ひとつぶこぼしてくれば
    あなたはふりそそぐ 雨となり 肌にしみ通ってくる


 李政美の『あなたの墓のそばに』を聞くのは、初演以来、今日で4度めだ。
 千歳烏山で、幡ヶ谷で、飛鳥山で、そして、今日、門前仲町で。
 だが、今までのどの時よりも、今日の歌は、すばらしかった。
 ひとつには、ピアノの伴奏のためだろう。この曲は、ギターにもよく合うし佐久間さんのアレンジが素敵なのだが、ピアノが実によく合うとわかった。
 内容といい、曲調といい、クラシカルな格調を持っているので、ピアノの深い響きが、まるで歌曲、リートのようにうまく調和している。

 また、何よりも、政美さん自身が、この歌を歌い込んできたためだろう。
 例えば、『京成線』も『わらい』も『遺言』も、小生はその初演に出会うという光栄に浴してきたのだけど、最初はやはり歌が固い。それが歌い込むにつれて、姫は自家薬籠中のものとし、自分の血肉の中に消化していく。
 半分ちょっと照れながら歌っていた、千歳烏山「らくだ」の9月の初演から2か月、この歌はもう、彼女のレパートリーの一部になった。
 きっと、作者のト・ジョンファンさんも、この歌を聞いたら、とても喜んでくれることだろう。ぜひ元気なうちに、一度お聴かせしたいものだ。
 もちろん、ジョンファンさんの、なき奥さんにも……

 「ちょんみさんの歌、ほんとにいいですね。好きなんです。
 今日はCD、お待ちですか。と、さっきと同じこと聞きますが」
 「ええ、この歌は入っていないですけど。このアルバム、作ってからもう4年たちますね。GENちゃんたちと一緒にやったのが懐かしいです。あの時は、みんなで曲を作りながら、楽しかったですね。」
 ぜひ、21世紀の来年は、セカンドアルバムを出してほしい。そしてもしできたら、この素晴らしい曲も入れてほしい。
 この曲の誕生に立ち会えたことを、小生は生涯の喜びとしたい。

 「次は最後の曲です。ぼくは、とても大切にしている絵本があります。
 あまんきみこさんの『ちいちゃんの影おくり』という本です。
 これも、人形アニメになっていて、それに曲をつけるよう頼まれました。

 昔、この国では、大きな戦争がありました。戦後と言われていたのが、来年はもう21世紀ですが、20世紀は怒濤のようにいろいろなことがありました。僕は1959年生まれで、まだ世紀の半分も生きていません。
 でも、話をいろいろ聞いて、やはり、戦争はいけないと思います。どんなことがあっても、どんな意味であっても、やってはいけないことです。
 そんな思いを込めて、曲を作ってみました。

 夏の夜の空襲で、家族と離ればなれになって、ひとりぼっちでさまよう、ちいちゃん。悲惨な戦争の陰で、小さな命を落としてしまう一人の女の子。もし、本屋さんで見つけたら、ぜひ読んでみてください。」

第9話 「影おくり」

 これは、暗い内容とはうらはらに、とても和やかな曲だった。
 だが、やさしさが、かえって、悲しみを増す、そんな曲だ。
 夏の日の、青い空。敗戦の八月の、何もかも失った焼け跡の、澄んだ空。

 中間部では、重いたっちの、重厚なメロディも入る。
 それは暗い戦争の思い出。飛行機の爆音、空襲のサイレン、火災と地響きの音、そして、人々の叫びと嘆きと、子供の泣き声と。

 最後に曲は、また、静かな和やかさを取り戻す。
 終戦の空、なにもかも失ったが、しかし、尊い平和だけは残った。
 新世紀を迎える今、悲しみは追憶のうちにしかない。

 だが、我々は、いつまでも、この悲しみを忘れないようにしよう。
 二度と、繰り返さないようにしよう。
 正義という美名のものに、再び、過ちを繰り返さないように。
 近ごろ、きなくさい発言のとびかうご時世に、あらためて心から願う。
 そして、この曲を、コンサートとアルバムの最後に弾いた、HALMAGEN の心を、願いを、やさしさを思うのだ。

アンコール 「ホワイト・クリスマス」

 拍手に答えて再登場した坂田梁山、そして、矢野敏広、HALMA GEN。
 三人のセッション、ピアノとギターの上に流れていく、尺八で奏でられる クリスマスのメロディーが、今、東京の上空を飛んでいく。

〜 空には、なき魂の平安が、地には、人の世の平和がありますように。

(終わり)

てじょんさんのHP http://member.nifty.ne.jp/taejeon

 
第一部 ピアノの巻 / 日本のサティHALMA GEN
第二部 尺八の巻 / カリスマ邦楽師坂田梁山

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